あざみ野の家

「この光の空間は、オーロラをみたときの感動と重なる…」「仕事で疲れていても、この家のおかげで元気でいられる…」「この空間は、わたしにふさわしい!」といったとてもうれしい言葉を住まい手の女性からいただいたことがある住宅です。 〈 デザインの効用 〉と〈 住まい手にとっての住宅の居心地 〉とが文字どおり両立した〈 理想的な住まいのあり方 〉が結果として実現されました。
このお住まいは共働きのご夫妻のもので、住戸規模の大きな公団住宅を全面リノベーションした事例です。
 
日本の住宅は一般に雑多なモノにあふれ、いわば視覚的騒音の中で、〈 空間性 〉とか〈 価値あるモノの味わい 〉など、デリケートな要素が見えなくなっていることが多いと思います。 それぞれがただただ目立ちたがっているモノたちに、空間を占拠されてしまい、人間にとって本源的に大切な空間の価値が台なしにされている…
私は、住宅を、基本的には「背景にひかえるもの」としてつくり、たとえば人間の姿とか真にうつくしいモノなど、主役が映えるようにしたいと考えています。
 
この家の訪問客は、みなさん時間をわすれて長居をされるとのことですが、光あふれるほどよいシンプルエレガンスが、多くの共感を得ていることによろこびを感じています。 リビングテーブルの脇の壁面に見える12個のアクリルボックスは、〈 2001 カレンダー 〉というアート作品(1〜12月のボックスの中に各月の日数のコーヒーフィルターが封入されて、住まい手の誕生日のフィルターが淡く着色された作品)で、それはあたかも壁面のように環境に溶け込み、やわらいだ空気を醸しています。
住まいは美的オブジェとは違うのですから、あくまでも住まい手にとっての居心地を最優先して、「硬さに帰結しない整序」というデザインを目標にしています。

改修前