東戸塚の家

駅前に建つ新築の超高層住宅の高層階に位置するこの住宅からは、およそ視界をさえぎるようなものはまったくない大きな俯瞰景の先に、見事な富士を望める… この魅力で購入を決めた、とクライアントの話。 文字通り〈 富士眺望の家 〉です。
このリビングルームのインテリアデザインを依頼されたのですが、リビングとの境の引き戸を開け放てば一体的につかえるコーナーを、プライバシーをたもてる個室に改造すること、も検討課題でした。
 
窓面の長さに対して部屋の奥行きが少ないため、部屋のどこからも窓外の景色をたのしめる反面、空間の知覚が外にむかう傾向がつよく、部屋が落ちつかなくなってしまうきらいがあります。 そこで、窓面に〈 半透明性をいかしたスクリーン 〉を設置しました。 その構成は、2層の半透明の布地からなる上下方向の自由な位置に折りたためるスクリーンで、窓面の腰の部分だけをカバーすることも可能なスクリーンをまずガラス側に設置し(→中段右写真)、それに、プレーンレースの横引きのカーテンを重ねることでいっそうの〈 柔らかさ 〉をだしました。 さらに室内側に、夏季の西日対策を考慮して、かなり透光性をおさえた布地のロールスクリーンを重ねる、という3重の構成です。
 
部屋のゾーニングについては、まず、オープンキッチンからの窓外眺望を確保しつつ、キッチンカウンターと窓面との間にテーブルと小ぶりのペンダント照明を配置し、ここを食事、団欒、パソコン作業…等々のマルチユースな場にして、イメージ的にも空間の核になるようにしました。 そして、部屋の両サイドを、一方は、オーディオ装置を収めた飾り棚と壁面アートの配置で表情を形成し、もう一方のコーナーは、ソファを置いたリラックスコナーとしました。 そのリラックスコーナーに寄りそう壁面収納の扉はシナ材のプレーンな木地仕上げにして、部屋全体の既存の白い仕上げ面に対する、一点〈 ぬくもりの表情 〉としてバランスをうみだしました。
 
住まいは生涯になんども購入できるようなものではないというのが一般なのですから、人生の長き伴侶として、この事例のように〈 可能性を引きだすしつらえ 〉を最初にきちっとしておく——ということを実行されたのは先見の明というべきでしょう。
 

施主ご家族と筆者(右端)