ワイヤープランツを用いたコンテンポラリーアート│金子清美作品
栃木県足利市の artspace & café で開かれている〈やわらかな重力〉展
で、金子清美さんの近作をみる機会があった。(*1)
ギャラリーの一角には、インスタレーションの要素としてこれまで制作
してきたさまざまな造形 ── 一部新作も含まれているが ── が並べら
れていて、日常の身近な素材や多肉植物などを用いたきわめてユニーク
だが、しかし、さりげない造形個物たちの混成世界をたのしむことが
できた(タイトル:夢想空間)。
ところで、今回の出品作でとくに筆者の眼を惹いたのは
ワイヤープランツを用いた額入りの新作群である。
金子は、自邸の庭で育てているワイヤープランツを乾燥させて
まとまった量を保存している。
それを用いた作品を過去にも発表しているのだが
(→ http://ops.co.jp/wp/?p=1745)
(→ http://ops.co.jp/wp/?p=2087 に掲載の掛軸)
今回の作品は、奥行きをもつ額縁入りの作品で、ワイヤープランツの枝
の〈複雑微妙なゆらぎ〉のある非幾何的なラインを生かして造形し
額の背面に映じた手前の窓のシャープな影とワイヤープランツの淡い
グラデーションの影とをともなって、複雑微妙にしてシンプルな構成の
美しい世界を生みだすことに成功している。
それは一瞬ドローイング絵画を連想させはするが、作品の立体性が深み
を生み、視る角度によって作品の陰影の表情が微妙に変化する…
自然が生みだす有機的なラインと作家の美意識とが鋭敏に交絡する
試行錯誤から生成してくる立体性とともにある絵画的な構成 ────
とでもいったらよいか…
〈自然性〉と〈作家のアート的感覚宇宙〉との、交絡 / 共生の美…
ここには、画材を用いた通常のドローイングとは隔絶した別世界が
あり、作家の手の技のみに依存しない 「ある意味の〈不自由〉の中で
はじめて獲得される〈自己を超えたゆたかさの美〉」 のようなものが
実現されていて、すばらしいと思う。
自然と人間の内面宇宙との、はざまに成立する《相互変位の造形》
あくまでも、制作は人間側の意思と手によって導かれ、それを享受
するのも人間であるが…
( しかし、人間も宇宙の一部として生まれていることを考えれば
美的センスを働かせた制作と作品の享受というプロセスの全体は
この宇宙の中のできごとである ──── ということになる )
金子は、自己の個性を意識的にストレートに出した表現を好まない
作家であり、あくまでも 「さりげない表現」 を大切にしている作家だ。
身近な日常の時空に静かに身をおくことを好み、ひとりで自由に
夢想時空をたのしみ、そこから自然に、ユニークだが
さりげないアート作品が生まれてくる…
身近な自然や日常の生活時空に深く密接したまなざしが
創作の根底にひかえていて
そのことが、今回のワイヤープランツを用いた作品に
つながっている…
アトリエの日常時空がギャラリーにもちこまれたような
「夢想空間」と命名された《場》としての作品……
この「夢想空間」の存在が、その場にいる人間と展示さ
れたアートとのあいだの関係を、このアートスペース兼
カフェという性格をまさに生かして、ゆったりとした
「集中~ゆらぎの時空シークエンス」 にすることに成功
していて、そのことの意味もたいへん大きいと思った。
*1── 会期 2020.11.14―29
写真:筆者撮影
2020年11月26日