そもそも生命体がこの世界に存在していることの超越的不思議 ── 畑龍徳作品〈生成と消滅〉
この世界では、まず、〈空間〉が広がっていて、そこに、物質的な具体物
が存在している …
気体でできた空をながめているときは、雲の形と無限にひろがる空間とを
同時に見、感じている …
しかし、立体アートをながめるときは、作品のシェイプのありようしだい
で、主として、シェイプそのものに眼が引かれてしまうこともあるし
それとは反対に、シェイプの存在があることで、かえってまわりの空間を
雰囲気的に感じることもある。
空白の造形 …
この作品は、〈形そのもの〉の構成によって表現体をつくるのではなく
物質的存在のまわりに寄り添っているかに感じられる「空白」を意識しな
がら、「最小限の形体」によって表現体をつくってみた。
素材は半磁土。(*1)
長方形の4枚の陶板は、「大地」を象徴し、その上にある空間は、「宇宙
への広がり」を表わしている。
その大地から、どういうわけか生命が生まれ、人間という知技の生命体へ
と進化してきた ── そのことの、まさに超越的な不思議!
作品は、左から
黎明 → 知技的生命体の出現 → 創造 → 進歩と囲繞化
の各ステージを表している。
人間は、自分のまわりに、人間特有の人工世界を創造してゆく…
人工的な創造物には、建築のような物質的な存在もあれば、インビジ
ブルなシステムもある。
初期のうちはよかった。 が、気づいてみると、いまや、競い合いを
通して淘汰された「全体性の中に強度をもつ人工的世界」の中へと
「唯一性宇宙としての人間の個々の生」が歯車のように埋没し、受働
態に傾斜してしまった感がある。
システムの強力巨大複雑化とその慣性モーメントの中で、個々人の内
的宇宙への脈絡の密度がとかく薄まりがちで、浮遊化を余儀なくされ
ている人間たち …
*1 ── 生成と消滅 制作・発表:2010年
写真:筆者撮影
2020年2月27日