相澤秀人 個展 | Mineral autonomous
まとまった空間ボリュームを有するギャラリーの壁に、
その壁と共生するように白い直方体と 垂直の細い木地の角棒とが
いろいろ変化して絡まった作品が点々とならび、
床にはなにやらゴロっと小さな塊の作品がふたつ置かれている…
個々の作品の「パッと見の、どうだ!」という顕示圧はなく、
カラッとしたシンプルさで、作品と空間性とが相まって
「独特の抽象性の響き」をかもしている。
それは、純粋な幾何学的形態と なにか機能する物体との中間に
あるようなゆらぐイメージの中にあって、
イメージ世界の認識座標としての範疇の辺縁部に位置する
〈ヌエ的領域〉 に属するもののようでもある。
素材の用い方に現代社会との脈絡をおのずととりこみつつ、
フォルムのありようは 「暗示のゆらぎ」 を含み、こちらの想像力を
刺激してくる。
これは、相澤秀人さんが 先ごろ四谷のギャラリーで見せてくれた
実験的な造形の印象だ。
相澤さんは、これまで合板などの規格木材を用いた抽象作品で知られた
人だが、今回は、一種類の規格材の 〈小角木材30×36〉 だけを使用して
作品を作っている。
その角材を集成したブロックと、そのブロックを貫通したり、支えたりして
いる (ように見える) 棒状の角材との取合わせのバリエーションで、
作品群が構成されている。
ブロックと貫通材 (あるいは支持材) との相互関係は可変で、
個々の作品のあり方とレイアウトの作品相互のバランスを決めるときに
その可変性が生かされたのであろう。
結果的に、それが決まるところに決まる ―― この単純な可変項の存在は、
微妙なユニークさをもっている。
集成ブロックの方は、木地がうっすら浮きあがる程度に白く塗られていて、
それによって直方体は白い壁面に融和し、かさばり感、重量感が
抑制されている。
その白いボリュームの下側の壁面には 複雑な淡い陰影が寄りそい、
上側の壁面には ブロックの白い上面が生みだす 〈リフレクション〉 が
ほのかに見える。
ブロックに対してとても細く見える棒状の角材は木地のままで、
貫通する (あるいは重力に抗して支える) 垂直ラインとして強調されている。
これによって、表現体のふたつの基本要素が独自のメリハリを得ているのだが、
ブロックのボリューム感をあえて抑制するように白色塗装をしているところが、
この作品のかなめになっているように感じた。
集成ブロックの量塊性と貫通 (支持) 体の繊細さとの極端に不安定な対比は、
この作品のフォルムを特色化する魅力であるが、
その対比に、ブロックを白く塗装するという 〈量塊抑制〉 を加えることで、
作品の突出した性状のいわば直線的感受を迂回させ、
見る側の想像力をそれとなくゆっくりと作動させることになる。
パッと見の刺激の強度ではなく、
じんわりと広がる 「暗示的で、ゆるい世界のゆたかさ」 …
見る側の意識の中に、焦点を安易に結ばせることをしないで、
そのスキマにひろく日常時空の意識/無意識を引きこみながら、
フォルム構成の美的な滋味感覚と、たゆたう想像力喚起の波動との間を、
往還させられてしまう…
これは、もしかして、
「垂直的思考・行動が特徴の男性世界」 と、
「自己享受的で泰然とした女性世界」 との
関係性のユーモアなのか?
あるいは、「それぞれの異質性が生かされた組み合わせによってこそ
生成される何ものか」 を暗示しているのか?
そんなふうに、頭の中をとりとめのない連想がよぎっていく…
近すぎたり、あたりまえ化の中で、かえって意識されないこと ――
作品は、そういうことも想像させた。
たとえば、われわれが逃れられないもっとも身近の作用であるにもかかわらず、
日常ほとんど無意識化されている 〈重力の作用と垂直性〉 のこと…
さらに、
手を動かして造形することをすっかり遠くへ追いやってしまった
機械生産一辺倒の時代にあって、
日曜大工をする人ならばDIYセンターで目にしているであろう
工業生産品の小角木材を用い、それを手ノコで加工する ――
という方法が、作品の形に微妙なゆらぎをもたらしてあたたかみを感じさせる。
そういう、工業生産品に象徴される時代性と 人の手による加工という行為の
からみあいで 表現体を形づくるということ ――
これはつまり、〈機械化〉 と 〈人間の手〉 という相反相補的な
根源的モーメントとの接点をもつ 〈詩的な行為〉 にもなっている…
床と作品との本格的な呼応関係についてはこれから展開したいテーマ ――
そう、相澤さんは語っていたが、今回、床に置かれていたふたつのオブジェは、
壁面に張り付いた作品の残材から生まれたもので、
ふたつのオブジェは、ひとつのブロックをふたつに切断した片割れをもとにして
作られている。
そのようにさまざまなレベルで、視界に存在するものの間の
〈隠れた関係性〉 が意識されている。
相澤さんの作品は、ひかえめな存在感であたたかみを感じさせ、
見る側は 自分のペースで
全体を眺めたり… 集成ブロックの小口の表情を見入ったり…
ゆったり味わいながら いろいろイメージし、たのしい…
展覧会の印象を文章化する作業は結構むずかしく、
読まれる方は、なにかとても難解な作品のように思われてしまうかも
しれないが、実際はまったくそういうことはない。
聞いた話だが、たまたまギャラリーに入ってきた男性が、椅子にかけながら、
「ここは休まるな…」 とつぶやいたそうだが、相澤ワールドはそういう性格を
もったやわらかな世界だ。
写真:筆者撮影
2013年3月24日