蛍の光跡
丹沢山麓の串川で、数日前に初蛍がでたという先月下旬、湿気に
包まれた夕暮れ時の樹林の中にふっと湧くようにあらわれる数少ない
源氏蛍の光跡を、じっと眼で追った…
甲虫のぎこちない飛行は、昼間見たのではあたりまえの単なる飛行
であるが、それが、光のラインとして現れると、時間の次元がずれて
しまったのか… と思わせるようなその 〈遅速〉 の、じつにやわらかに
予想をうらぎって小さくそして大胆に変化する光跡は、なんとも表現
しがたい妙なる趣のもの… と深く感動してしまった。
この感動は、数少ない蛍を眼で追ったからこそ、見えた世界…
蛍の群舞ばかりを求めていては、出会えない世界…
小学生の頃、友人が蛍を見せてくれたことがあり、そのときはじめて
蛍の姿を目の当たりにして、なんだ、これが蛍か… と、なんか味気
なさを感じた記憶がある…
知らないほうがいいことがこの世界には、ある。
知ってしまうと、初々しい感受のよろこびが二度と体験できない――
そういう、先行して得た知識のネガティブな面が、ある。
そんなことも考えさせられた蛍の宴であった。
写真:筆者撮影
2014年7月8日