〈 空 の 生 成 〉────── 3次元ドローイング│畑 龍徳 作品
ここに掲載されている作品《空(くう)の生成》は、亜鉛メッキされた極細のスチールワイヤー(径0.7ミリ)だけを用いて作られたシンプルな作品であるが、円形の領域上に置かれた6個のオブジェ(個立体)のあり方は、それぞれがきわめて個性的で、しかも、実物の形と基板上の《影》とが重なりあって、多変諧調の複雑な景を醸している。
作品全体のサイズが小ぶりなので、観者と作品とを結ぶ視線角度が開放されていて、俯瞰はもちろんのこと、作品が置かれた基板面に近い横方向から眺めるなど、自在だ。 さらに、円形基板を回転可能にしてあるので、観者が体を移動することなく、注視点の視界と手の動きを呼応させながら、瞬間瞬間の新しい見え方との出合いをじっくりとたのしめる。
この作品では、円形基板上の複数の個立体の「個々の形」と「全体の構成」のあり方について、スケッチやマケットなどによる「事前のスタディ」をまったく行っていない!
つまり、《瞬間のひらめき》で、すべての形を創っていく自由造形である。
観者は、この作品が醸している「沈黙の中のざわめき」で、内面が宙づりにされてしまうかもしれない…
本作品は、昨年(2024年)12月に開催された 第17回 Message Art Exhibition に出品された。
(展示ギャラリー:アートスペース羅針盤/東京都中央区京橋)
来廊された方々からいろいろの反応のことばをいただいたが、Message Art展の企画者である 佐藤省氏(美術作家│アートディレクター)から寄せられた作品評が、作品の全体の特徴を美しく表現していただいているので、以下に掲載させていただく。
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昨日拝見した作品をどう捉えようか!と…頭の中で考えをめぐらしているが、ワイヤーの作品であるのに、言葉が引っ掛からず、すり抜けてしまう…
これはただごとではないなぁ…と
広く立ち上がってくる空間は、充溢しているのに 黙すざわめきを浸透させ、現象は、意味など遥かに超えて、淡さゆえの滲む影が 作品の発する光で深い宇宙を醸造している…
俯瞰するその形は、存在からも言葉からも遠く…
それは孤独な海を漂泊しながら… 見る者の脳内を大きく揺らし続けるに違いない~♪
そして、さらに佐藤氏の創造的な感受力が動いて、
エネルギーを秘めた繊細なワイヤーは、時間空間の見えない裂け目を軽やかに奔(はし)る。
その地点に立ち上がる骨格ともいえる形は、記憶された軌跡というよりも、未来を予告する一瞬を捉えた形 と見える。 それゆえに存在の完璧なまでの淡さが意志をもって揺らぐ。
沈黙を喚起する地平を俯瞰する… その視界を遮る光の存在が、この作品の空(くう)を想像させる。
作品の角度を変えて眺めてみると、また面白い言葉が生まれ出てくる…
と作品評が展開した…
──あとがき──
作品が完成したとき、アトリエの南側の窓から入り込む陽光が天井面で反射して室内がやわらかな光に包まれていた… その拡散光のもとで見た本作品のひっそりとした静謐な佇まいは、なんとも言えぬ魅力をたたえていた…
さまざまに空(くう)を舞う繊細な亜鉛メッキ鋼線が、ひそかに息づくようにその表面を控えめに反射させながら、じつに微妙に変化していく…
相互にからみあう細いラインが、それぞれに異なった趣をたたえていて、
我を忘れてしげしげと見入ってしまった…
眼では感じられるが、写真では捉えられぬ! ─── ほかでは体験できないであろうところの「とてもひそやかだが、確かな全的な存在感」が、そこにはあった。
この作品を見た 金子清美氏(美術作家)が、「風の遊具」と、ふと声に出された…
この詩的なことばに、私は「飛んだ感性だな!」と、にわかに嬉しくなってしまった…
写真:筆者撮影
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2025年3月15日