紙のオブジェ | 畑龍徳作品
友人のアーティストから個展への協力を依頼され、それがきっかけで
このたび、紙のオブジェを二種類制作することになった。
紙の 「ペラペラな感じ」 を生かして、紙ならではの造形をしたい…
これが、終始こだわりつづけた造形指針。
その展覧会は、《 異形の庭 》 というタイトルがつけられた展覧会で、
「庭をもつ住宅空間とともにあるギャラリー」 という空間の特性と
共振させながら、
《 詩性のことば 》 と 《 抽象アート表現 》 が相互に還流しつつ
多相的に生みだされた作品群が
それぞれの場所を得ながら 展示されている。
これは、女性作家である佐藤省さんが
作りためてきた 《 肩ひじはらぬ日常表現作品 》 をベースにして、
内面世界を、「日常空間性を有する展示空間」 へと重ねあわせを
行ってゆく――そういう 「展示を考えるプロセス自体」 が
アート創造行為になっている展覧会である。
実際に、作家は庭がとても好きで、そういう作家が、
庭と住宅とギャラリー空間――という多様性をもった展示空間
を相手に 展示の構想を練る…
あるいは、床の間の軸物のあり方を テーマにそって異化すべく、
専門の他者に制作の協力を求める…
そうした 「他者との縁」 もふくめて、
《 間(あわい)の豊かさ 》 を体現したインスタレーション――
といってよいであろう。
ギャラリーの入り口のすぐ横の 緑が寄りそう窓辺に、
作家がことばを記した短冊を差した 《 ことばの家 》 を置いて、
七夕の日のオープニングの来廊者に
小さな荷札に 何かことばを自由に書いてもらうお返しに、
短冊を一本引いてもらい、おみやげとしてさしあげる。
そういう 「ことばの交換」 をたのしく介在する 《 ことばの家 》 なのだが、
その紙の家を 筆者が制作してさしあげた。
特殊な半透明の紙を用いて、《 紙独自の薄さがもつ美しさ 》 と、
《 折り目が生みだす端正さ 》 とを、表現してみたいと思った。
人の頭の中は いわば無限宇宙…
意識の動きとか、外部からの感覚の刺激に触発されて、
無意識無限宇宙から、時々刻々、断続的に、
ことばやイメージが送りだされてくる…
そんなことを考えながら、《 ことばを発する人間 》 を抽象するような感じで
《 ことばの家 》 を作ってみた。
七夕のオープニングでは、和室に配されたさまざまな作品たちと
共鳴するように 舞踏家の趙寿玉さんが純白の衣装をつけて、舞った。
…彷徨する光の鼓動の下 昼夜 見えない一瞬を揺らぎ
野天に気泡を結わえる一双の舟…
作家自身によるこの詩のことばに呼応させて、
床の間一面に敷かれた珊瑚砂の上に
――この珊瑚砂は、展覧会の直前に 作家がたまたま出会った
小浜島のアーティストが好意で送ってくれたもの――
一筋の墨の線が引かれたロール紙を納めた 《 ことばの舟 》 が 二艘…
その一艘を、寿玉さんが手にとり、ロール紙を引き出して、線を読み、
メッセージを七夕の天空に届けた…
この 《 ことばの舟 》 を、舞い人が手にとることを想像しながら、
厚手のトレーシングペーパーでつくってみた。
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佐藤 省 ― 異形の庭 ―
2013.7.7(日)~7.15(月) 12:00~18:00 (最終日16:00)
ギャラリー 水・土・木/みず・と・き
東京都練馬区小竹町1-44-1 TEL 3955-2508
西武池袋線「江古田駅」または副都心線「小竹向原駅」より徒歩
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【追記】
この文章と写真を見た友人の新井九紀子さん(墨アーティスト) から
以下のすてきな感想が届いた。
七夕という、人が何かしらの記憶をもっている日に、床の間や庭のある画廊で
〈ことば〉 が紡がれた展覧会のオープニングがあったのは、素敵なことです。
〈ことばの家〉 や 〈ことばの舟〉 の かそけさは、観者それぞれの胸に、秘かに
郷愁を灯らせたことでしょう…
写真:筆者撮影
2013年7月9日