心の花 の造形 | 秦碧の染花
生の花と 上質な絹を用いて丹精込めてつくられた花とでは
そこに違いがあるのは当然であるが
しかし 生の花にできるだけ似せる――という いわゆる造花とは
似て非なる 「人の手になるものならではの 〈 花の造形 〉」
というものがある。
このたび銀座で秦碧さんが染花・陶・書の個展を開かれた。
そこに展示されていた染花は まさにそういう
「作家の心を描いた花」 であった。
これまでの創作活動の集大成的な展覧会であった
と氏は語る。
展覧会場のいちばん奥に
ほとんどモノトーンに近い しかし色調のほのかな綾がじつにみごとな
花弁の先端が繊細にわれて 空間にとけいる大輪のチューリップが
頭おもたげに長い茎をしならせてムーヴメントをえがき
そこは 〈 抑制されたゴージャスさ 〉 ともいうべき空気に
包まれていた …
ポイント的にオフホワイトの花が配され
全体が黒チューリップの群で構成された世界は
いわば 〈 鷹揚な立体絵画 〉 …
ほのかに息づく陰影が 深い静寂の中にある …
自然界にある花は それぞれに個性があり 美しい。
だれもが その美しさになごまされる。
向こうから うるさく話しかけられることなく
その存在がたとえあざやかであっても
あくまでも ひかえめな位置にいる …
人間にとって
根源的なところで
いつまでも
ともに いてくれる存在 …
そして
ともに いてほしい存在 …
そういう人間の花に対する印象を背景にして
〈 自分自身の花の造形 〉 が
おのずと生まれてくる。
植物の品種改良によって無数の花が生みだされているが
そういう生命体としての花の新種というのとはちがう
一個の人生が生みだす
一個の感性宇宙が生みだす
〈 詩 〉 としての花!
写真:筆者撮影
2014年11月28日