視 覚 の 本 能 性 の 外 へ │ 小スケールの形体と共にある     〈ほのかな空間性〉を感受する│畑龍徳作品

美 ○ 創造 美 ○ 思索

 

この作品は、小スケールで、二次元平面から立上がる

きわめてシンプルな形体をつくり、物質的な「形の存在」

と、その「近傍の空間」との 感受されないか、されるか

の きわどい共融のありようを、美的な状態で具体化する

ことを試みものである。

 

 

 

 

       

 

 

 

透明な空間は直接に見ることはできないが、たとえば聖堂

天井高の高い内部空間とか、パースのきいた長い廊下と

か、大きな平原の広がりなどに接すると、だれでも、気配

のようそこにある「空間性」を感じているであろう。

 

小さなスケールの3次元世界では、ふつうは「空間」を

見ることなく、「形」の方を見ていると思われるが、

しかし、モノとモノとの「関係」を美的に調和させよう

すると、そこにおのずと「空間」が介在してくる。  

モノの外姿自体が、相互に調和する関係であるかどうか

いう問題とともに、モノとモノとの間合いの関係とか、

まわりの空間のありようとかを同時に考えないと、調和

した世界にいたることはできない、ということはいう

までもない。

 

 

作品は、58センチ角の平面上に展開されいて、異なる

個形体が6個、その上に配置されている。

素材は厚紙で、それぞれの個形体は、まず紙に展開図を

描き、それを切り抜き、折り曲げによって作られた。

「接合」ではなく、「折り曲げ」にこだわっている。

 

人の視覚は、おのずと「形自体」に向かってしまうもので

あるが、それを避けるために、現実の空間体験から記憶化

される「既成の形体イメージ」、たとえば、建築とか、

そういうものから距離をとりながら今回の造形を行って

いて、それは、何か形を見たときにおのずと誘発されがち

「連想」の世界に行ってしまうと、意識がそこ止まりに

なって、「モノの形と共融してほのかに存在しているはず

の空間性」に眼が行くようなデリケートな視覚が立ち上が

るチャンス失ってしまう、と想像するからである。 

 

少なくとも視覚が鍛錬された人であれば「形相互の配置

関係」の良しあしを直感するであろうが、それは、意識が

自体〉に固着した中での〈空間性〉の感受であって、

今回の造形では、もっと解き放たれた視覚と無意識脈絡の

中で「モノの形と共融してほのかに存在しているはずの

空間性」におのずと視覚が向かうように、造形そのものを

工夫した─────そういうアートである、ということである。

 

厚みをもたない紙が、水平の状態から三次元へと立上がる…

しかも(折り曲げ)によって立上がる…、そこに同時に、

きわめて、きわめて、ほのかな空間が初々しく生起して

いるのを、静かに眺める…

 

 

───視覚原理をちょっとズラすような

                           そんな「美的オブジェ」───

 

 

前述したように、小さなスケールの空間では、人は

「空間」感受することなく、モノの「形」のほうを見て

いる。

そして、あるモノが、なにか他のモノを連想させること

しばしばあることから、今回の作品では、連想をできる

け招かないような、つまり、「現実世界の体験の中では

見かけないような〈形のありよう〉」を求めることで、

無意識下で呪縛されている「形のみを感受してしまう視覚

の本能」からできるだけ離れられるように工夫した。

 

そうすることで、「形体/近傍空間の共融」という原理的

な世界を、小さなスケールでの、初源的かつデリケートな

様相として、しかも美的造形に傾斜しすぎてそれだけに

はまってしまうの避けながら、ぎりぎりのところで

創生することを試みた。

 

 

個形体に関しては、いくつもの立体スケッチの中から、

今回のテーマに照らしてより本質的と思われるものを

厳選した結果、水平の面が垂直方向へと折れまがった

もの、垂直の面が壁状に連ったもの、コの字型の

ゲート状のものと水平の面の中間が山形盛り上がっ

たものとの組み合せ、水平面が基板から浮き上がっ

もの……等々の より初源的空間生成形体が配置され

ている。

 

 

写真では、ご覧になる方の想像的な感受になってしま

うので、肝心なところがお伝えできず残念ではあるが…

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作品は、今月の13-19日にアートスペース羅針盤で開催

されたMessage Art 展  vol.14」(*1)に出品した

が、作品に対する反応は当然のことながら、さまざまで

あった。

 

 

 

まず、本展の企画者の佐藤省氏は

 

─────────────────────────

 

平面から立ち上がる形の変化が不規則に散在しているが、

その位置しかない!  とおさまっている。

 

その形をめぐって、「不可視の空間」が、影を通して見え

いる感じは、静謐な時を確実に維持しながら

「曖昧な儚さ」のようなものを孕んで…

 

そういう印象は、厚紙という素材の端正な姿からくる

「柔らかな硬質」という相反する特性が作用して

もたらされているようにも思う。

 

見えているのに、なかなか視界に収まらない宇宙を呈して

いて…

透明感に満ちた、鮮度高い香りを放っている作品だ

思う。

 

平面から立ち上がる形の高さが、高からず低からずで、

そのバランスの妙味はさすがだ!

 

─────────────────────────────────

 

 

 

本展に参加した陶オブジェ作家の召田能里子氏からは、

「見たいと思っていたものに出会えた感じで、きわめて

シンプルな形の中に、深さがある…」との反応をいただいた。

「影が立ち上がったような形…」と、おもしろい感想を

語ってくれた和紙の造形作家である五十嵐美智子氏、

これから成長してような気配をもった造形… と

いった感じ方をされた人もいた。

 

作品の抽象性が通常のアートとはかけ離れているので、

どうしても記憶からくる形の連想性で感想を語る人が

いたが、一方で、作品を前にしてわかりやすく説明をする

と、会話が進展して、いろいろ感じているところを正直に

語ってくれた人が過去のMessage展の時に比べ多かった

感じで、今回の作品の特別な性格が、ゆたかな会話時間

を招来してくれたように思った。

また、観者が自身の好みで作品を選ぶのは当然であるが、

たとえば、創作家が、単なる好みを超えたところの

「何らかのおもしろさ」に関心をもつような、そういった

内面の広がりというか柔軟性と、距離をもった人にとって

は、とっつきにくい作品であったと想像するが、

ともかく、アート世界における「人の内面はそれぞれ…」

という自由は、かけがえのないものだし、また、個性を

超えて、人と人の間に「作品が介在しての新しい内面の旅

が開かれる…」という可能性があり、その旅が、人生の

滋味深い時空と絡み合っているところもあったりで、

なんともすばらしいと思う。

 

 

 

旧知の友人である藤井龍徳氏(*2)に、今回の作品の

趣旨と写真を送ったら、電話をくれて、作品をめぐる話

からこの世界の真髄にいたる話まで、おもしろい時間を

すごすことになった。

以下に、氏が語ってくれたことばの要点を記してみる。

 

 

────────────────────────────────

 

── 今回の畑作品を見ての印象 ──

 

とても心地よい作品で、紙という素材をこういう風に

使っているところが好きです。

何て言うのだろうか… 畑さんの中に浸みこんでいる

本来的にもっているものが、これまで、無意識下に抑え

込まれていたものが、出てきた…

一体、畑さんの内部に何が起こったのか? …

そんな印象をもった。

 

単に、美しいとか、おもしろい、とか、そういうものとは

違って、ここと関わりたいなと自分も思いつづけてきた

だが…

 

「不可解」ということばが大好きで、空間についてはその

大小いうのとは違う無限性の中のそれを思うし、時間に

関してもそれが、あるのか、ないのか… そういう感じが

ある。

 

作品の趣旨説明の中にある「共融」ということばにも

響いてくるものがあり、それは、空間の中だけに限られた

ことではなく、人それぞれがその「共融」の世界なのでは

ないか…

人は、仕分けしたり、固定することで、ものごとを捉えた

がるが、そもそも、「固定できない」ということが

もっとも重要なことでは…

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

*1 ── Message Art展は、現代美術作家の佐藤省氏が

             企画する展覧会で、年一回、12月に開催されて

     きた。

     会場はこれまで何回か移動してきているが、

     昨年から、京橋の〈アートスペース羅針盤〉で

     開催されている。 

 

*2 ──  藤井龍徳氏は、自然界に深くつながりをもった

     インスタレーションを行ってきた。過去に私が

     書いた作品あるので、ご覧いただきたい

             http://ops.co.jp/wp/?p=81

             http://ops.co.jp/wp/?p=1152

 

 

 

写真:筆者撮影