人間世界の〈やさしい光〉のヒント… │ 金子清美作品〈束の間〉
昭和の初期に建てられた足利の民家の和室で、金子清美さんが
ひさしぶりにインスタレーション作品に取り組んだ。*1
廊下ごしに庭に面する東南の角部屋とその続きの間を利用して
〈光の間〉と〈翳の間〉が、対になって呼吸している作品で
インスタレーションの傑作ともいうべき静謐美の作品である。
障子越しのやわらかな光が主調をなす「気づくと変化している
外光」の綾と、そこにすでに在る空間性や諸々の文化遺物の存在
── そうしたものたちと深いところで共鳴しあう金子特有の作品
要素が、実にていねいに仕込まれ、配置されている…
作品要素のなかには「書かれたことば」もふくまれているのだが
このインスタレーションは、視覚美を偏重したアートというよりは
ひとが「生きる」こと、あるいは「いのち」、とのコンテックスト
に支えられていて、いわば生命的なアートとしての根源性と包括性
を有しているといえよう。
そして、作品が成立してゆく過程における創造的思考に
向こうからやってきた偶然的な条件との不思議な出会いが絡み
それが、偶然にしてはできすぎた脈絡を呈する ──
そうした導きの力が加わって、インスタレーションの全体が
「寡黙な背後脈絡世界」としての密度を体現するにいたる…
そうした、いわば「〈存在〉そのもの」の深遠にしてデリケートな
つぶやきは曖昧さの中に包まれ、現場で実際に感受され、あるいは
想像力が動く全的なる世界は、観者の視線の動きから瞬間瞬間に生成
されつづける動的な性格の内的世界であり、それは、言葉や写真では
とらえることができない複雑系の世界である。
作品空間に接する時間は、まさに一期一会 ── そういういとしさを
作品のたたずまいに強く感じたのが今回の金子の作品であった。
金子の作品は、さりげなさの中に醸される
「人間世界の〈やさしい光〉のヒント」であり
自己主張にもっぱら占された「目立ちのアート」とは
ずばり、真逆の世界である。
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*1── 足利CON展参加インスタレーション 2018.5.13-19
写真:筆者撮影
2018年5月31日