静止とスローモーションの無限性 | 趙寿玉の幽玄

美 ○ 会う

 

なにか自分自身が融けていくような そんないとしさを感じさせる――

( かそけき美 ) のひととき…

 

毎年一回 銀座のギャラリーで、最高の舞い人と創造的な舞台のしつらえ

による総合アートを ぜいたくに体験できる稀有なチャンスがあり、

私は、そのこじんまりとした深遠なる舞台を毎回のがさずみてきた。

舞い人は同じなのだが、意想外な演出の舞に 毎回引きこまれてしまう。

 

ギャラリーの空間は古く、その様態は整然からは遠いものなのだが、

それが、いわゆるこぎれいにまとめられたモダンスペースには

欠落しがちな ( 独特のゆるい空気 ) をかもしている。

整理されていない空間の出っぱり引っこみが、空間演出の陰影の中で

思わぬプラスのゆらぎをあたえ、うつくしい…

 

この総合アートの核には 作家でもある女性プロデューサーがいて、

その人の眼と創造の熱が ほかの才能を引きよせる。 

 

魂が 魂を 選んでいる…

 

 

 

舞い人は、静止することのゆたかさをうつくしく体現することのできる

魂と肉体の才女で、

その人はかつて 「静止している時は、体がきわめてはげしく働いている…」

と話していた。

もっともっと留まっていたい、でも体がもたない――そのぎりぎりのところで、

( 静の無限性のゆたかさ ) への愛が 燃焼する。

 

 

 

 

 

 

 

この12/17に行われた公演 「白い闇」 は4周年目にあたるが、

その舞台には、空間オブジェと映像の制作で女性作家2人が参加した。

しかも 2人とも今回初めての参加だ。

プロデューサーをふくめ、全員女性…

 

 

全体の舞台の組み上げがどのようになされたのか?

 

まず、プロデューサーがさまざまな音源をチョイスして、音響技術の

担当者(この人は男性)といっしょに40分の長さの音づくりをする。

その創音データを、舞い人、映像作家、空間オブジェ制作者に送り、

それぞれがそこから湧いたイメージでのびのびと創作をする。

そして、本番直前に、全員が集まって調整をしたという。

 

舞い人やほかの作家のことを、プロデューサーは深いところで直感的に

把握しており、信頼している。 

だから、舞い人や協力作家のもつ創造世界の質が相互に共鳴する

人たちによる創造世界なのだ。

そこには、プロデューサーのつくった音というやわらかい基軸が

まずあって、それがたとえば 「循環する水」 といったイメージ (実際の

基調イメージは多重的で詩的複雑さをもったものだが…) とともに

参加アーティストたちの間で共有されるが、あとは、それぞれの個性的な

創造のジャンプが展開されて、全体としてしっくりとした基調の空気を

もちつつも、しかし、まさに意想外の世界が相互に融け合ったうつくしい

静寂の世界が生成されていく…

舞いは、かならずしもリハーサル通りではなくて、即興が入る。

 

 

 

 

 

 

 

この公演は、再演されることはない。

 

プロデューサーと参加アーティストが声をかけた関係者50人ほど

 (空間の大きさからこの人数が限度) を観客とする。

 

まさにぜいたくの極みの時間…

 

 

 

クリエイティブな魂が

 

うつくしく融解しあう

 

人生でただ一回の

 

出来事としての

 

ぜいたくな

 

静寂のとき …

 

 

 

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「白い闇」/季節を舞う  2012.12.17

 

演出・サウンド : 佐藤 省  舞踏 : 趙 寿玉  空間オブジェ : 田尻 幸子

映像 : 小川 真理  音響技術 : 安本 尚平

 

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写真:筆者撮影