五感が受けた〈土地の全的印象〉を〈視覚表現体〉にする ── 畑龍徳作品〈 水 影 〉
視覚でとらえた風景を、具象的あるいは抽象的に表現する──
というのではなく、視覚以外の印象をふくむ〈全的な感興〉を
「〈形〉という確たる存在」として造形固定化すること…
夏の陽射しを受けて輝く鬱蒼とした斜面林にかこまれて、開け放たれた窓
からはきもちのよい涼風が通りぬけ、近くに遠くに、蝉の鳴き声と小鳥の
さえずりが、じんわりと湿気を感じさせる大気の中を伝わってくる…
中之条のはずれの山奥にたまたまあった陶芸アトリエの片隅を使わせて
いただいて、そういう環境のリアルな体感を、まさに即興的に、〈形〉に
したことがあった。(*1)
いま、身体のまわりの環境の、何を、感じているか…
視覚でとらえられた印象だけではないもっと全体的な感興というもの…
その感興にもとづいて、〈造形〉という「確立指向の創造行為」を行う。
この行為は、作り手の主観による「ごく自然体での感覚主題の抽出」
という限定化をふまえながらの、〈形〉という固定的異次元世界への変換
である、それも、結果としての〈造形〉が、それこそ種々雑多な形が
錯綜して存在する〈いまの現実〉という宇宙の中で、「単独の存在」と
して新鮮に響くものとしてなんらかの魅力をもたなければならない。
いうまでもなく、この造形のプロセスは、いわゆる「説明的なもの」では
まったくない…
そういう構想の全体を、自分の直観にまかせて、造形のプロセスを自由
自在に行ったり来たりして、〈形〉にしてゆく…
シンプルで端正な形 ── これは、私の好みである。
作品が生まれて、あとでふりかえって考えれば、このオブジェは
水 影 ―― 水、そして遠方からの生き物たちの声 ――
というタイトルが似合うかな、と思った。
大自然の循環を支えている〈水〉…
生命体を根底から支えてくれている〈水〉…
*1── 水 影 │ 水、そして遠方からの生き物たちの声
陶 218×125×41mm 制作・発表:2011年
写真:筆者撮影
2019年10月13日