美しい 時間の形象 | 五十嵐美智子 個展
紙の原料であるコウゾ (楮) の繊維を水に拡散させたものは
紙料 (しりょう) といわれ、これを漉いて和紙は作られる。
長年の和紙漉きの経験をもつアーティストが、この紙料を
用いて とてもユニークな表現世界を見せてくれた。
先頃 銀座で個展を開いていた五十嵐美智子さんがその人だ。
作品は、楮の繊維が凝結した円形平面状のものと
線状に撚られたものとのふたつの要素から構成されている。
いずれも、作家が膨大な時間をかけて 自らの手で
生み出したものだ。
不可逆的に過ぎ去っていく時間は、光陰矢の如しの譬えに
みられるように一筋の線のようなイメージをもつ。
そういう物理的時間の流れの中にあって、一方で、人は
人生という限られた時間の中で、さまざまな出会いをもち、
「(ときに時間を忘れてしまうような)人生の輝き」 を
体験してゆく…
そんな、人生のせつなくもいとしい時間の有りようが、
「一連なりの撚られた楮のライン」 に込められていて、
美しい紡錘形の螺旋は 人生の途上の 「ゆたかな
ふくらみの時間」 を形象化しようとしたものだ…
作家は、「言葉では表現がむずかしいのですが…」 と
前置きして そのような意味合いのことを語ってくれた。
透明の薄いアクリル板で支持された楮の紡錘形は、
光の加減と見る角度で、表情がとてもデリケートな変化を
見せて、美しい。
連続する面で構成された通常のオブジェとは異なり、
くっきりとした螺旋ラインで 紡錘状の輪郭をやわらかく想定させる
「透けの形」 は、その内側に抱える空間性を 消/現 のはざまに
ゆらがせ、ほのかな光の空気感を漂わせながら、
楮のスパイラルラインが 独自の陰影のグラデーションを
しずかにうたっていた。
かそけき空間性を抱くこのような作品を生みだすような
人であれば、それを作品がのぞむよりよい空気感の空間の
中に展示してみたい… と思うのは当然のことであろう。
自作に居心地のよい居場所を与えて、作家自らがその作品の
響きを堪能する――
そういう意味合いも強く感じさせる 「アートする情熱」 がこちらにも
伝わってくるような密度の高い展覧会であった。
作家は、小さいときから 「紙」 がとにかく好きだったそうだ。
そして、20年ほど前に阿波の楮和紙漉きに出会う…
作家の作品づくりの人生の中の 「今」 が、
ちょうど今回の作品の紡錘形のふくらみの時間に
重なって見える…
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五十嵐美智子 ― みず の きおく ―
2013.12.2(月)~12.7(土) 11:00~19:00
ギャラリー悠玄 東京都中央区銀座6-3-17 悠玄ビル
TEL 03-3572-2526
泰明小学校前のカフェ脇の泰明通りを入ってすぐ左側
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写真:筆者撮影
(131208 展覧会の会期と関連する記述を書きかえた)
2013年12月3日